日頃皆さんが本屋で見ているビジネス書はどのようにして作られているのでしょうか?
ここでは、日頃からビジネスを作っている立場として、ビジネス書の企画が立案され、取材・編集を経て印刷され、書店に流通するまでの流れを話したいと思います。
ビジネス書ができるまで段階1 マーケティング
出版社は日頃から、本にする価値があるテーマや、本を出すと売上が見込める著者を探しています。
ビジネス書の場合、小説とは異なり文章や物語の世界観を売っているのではなく、著者が持っているノウハウや知見・経験などを読み物のかたちで広く販売することを目的としています。
まずは担当編集者企画を立案するにあたっては、既に世に出ているビジネス書(類書といいます)を分析する「マーケティング」の段階から入ります。
すでにたくさんのビジネス街の中に出ていますから、同じ本を作っても仕方がありません。
一方で何年も継続して売れ続けているテーマは必ずありますから、 定期的にそのテーマについて新しい本を出せば一定の売上が見込めるということになります。
出版社は過去の売上データを参考にしながら、「次に本を出すとしたら、どんな本が売れるか」を考えます。
まだ本を出したことない著者の本を出すのも一つですし、 すでに著作を書いていてヒットしており、大きな知名度がある著者の次回作を出すのも手です。
また既に出ている本をまとめたり、イラストを付け加えて読みやすくしたりといった再編集も考えられます。
書籍作りは一般のマスコミと異なり、ひとつひとつについて原価を計算することができるので、メーカー的な発想から商品が企画されます。
そのため、「一定層に確実に売れるけれども、あまりにお金がかかってしまって結局利益にならないもの」はここでボツになってしまいます。
また、「売れるかどうかわからないけれど、もし売れたら大きな人が見込めるもの」は出版社の余裕がある場合にはやってみようということになります。
担当編集者は自らの得意な分野を中心にいま売れると思う分野や、いま作りたい本について 情報収集をすすめ、企画書を立案します。
基本的に出版社では、出版企画書を社内で通過させないと本を出すことはできません。
そのため、企画書作りには慎重になります。
ビジネス書ができるまで段階2 取材・執筆・編集・校正
無事に企画書が通ったら企画書のとおりに本を作っていきます。
ビジネス書の著者の場合は、自分で文章を書く時間があまりとれないか、もしくは文章があまり上手に書けないというケースがほとんどです。
その場合、代筆のライター(=ブックライター)に依頼することになります。
通常は編集者側がフリーランスのブックライターをその本の担当ライターとして依頼し、取材時から同席する形になります。
取材前に、準備しておくのが、企画書です。
取材においては、「さあ、それでは本の1ページ目からしゃべってください」と言ってもなかなか話せるわけがないですから、実際には取材の前に本の内容をあらかじめ「目次構成案」というかたちで下書きをしておきます。目次構成案は本をつくるうえで重要なもので、企画書を完成させる段階でほぼ仕上がっている必要があります。
目次構成案の通りに内容を進めていけば、本として成立する、ということがはっきりした時点で本格的な取材がスタートします。
取材はライターによる聞き書きスタイルで進められていきますが、文章のまま話してもらうのを録音するというわけではなく、ライターが著者に「〜について詳しくおしえてください」「それはどういうことですか?」「もっとわかりやすく教えてくれますか?」「具体例はありますか?」という質問を繰り返すことで内容をわかりやすく充実させていきます。
そのため、取材においても会話しているかのような雰囲気で進んでいきます。
こうして、取材を終えたらライターが原稿を執筆し、2週間から1ヶ月程度集中的に原稿を執筆することで原稿が完成します。
編集者はその原稿を修正しつつ、完成原稿を近づけて著者に見せます。
ビジネス書のデザインは基本的に縦書きで1行38文字前後*1ページ15行前後というのが平均的ですが、その文字量にあわせてみてページ数がどれくらいになるかを確認します。
ページ数が問題なければ語句の統一や内容に間違いがないか、修正したり追加したりする内容はないかをなんどもチェックして、印刷準備を進めます。
印刷においては、アドビの専用ソフト「インデザイン」にテキストや画像などをすべて設定して印刷データをつくるのが主流です。
インデザインでつくられたデータを印刷所に送って無事に印刷スタートです。
ビジネス書ができるまで段階3 印刷・流通・販売
無事に印刷がおわったら、印刷所から出版社の倉庫などへ数千部の書籍が届きます。
内容を確認して問題がなければ、届いたうちから出版流通会社に流通を任せます。
出版流通会社や書店は印刷が完了する数日前または数週間前から、新刊情報というものをあらかじめやりとりしています。毎日大量の新刊が寄せられるため、あらかじめどんな本がでるかをできるだけ早く正確に共有しているのです。
大手出版社であれば2ヶ月前から、本のタイトル著者、著者のプロフィールなどが予告されます。
なお、出版業界では、ひとつの書店(小売店)は必ず一つの取次(問屋)を通して本を仕入れることになっています。そのため、1つの取次があらゆる出版社のあらゆる本を扱う必要があります。
そのため、各取次業者はおおまかに「この出版社からのこのタイプのビジネス書は、だいたいどこの書店に何部ずつ納めよう」ということを経験的に決めています。
たとえば基本的にはじめての著者で初版五千部の本であれば、どこの大型書店に何部、どこの小さな書店には1部、というのがはじめからだいたい決まっているというわけです。
例外はありますが、いわば惰性のようなかたちで販売場所が決まっているというわけです。
こうして街の書店に新刊が発売される、というわけです。
本が発売され、本が売れたら重版がなされ、ロングセラーとしてなんども印刷出荷がなされていく、というのが一般的な流れになります。
書籍には明確な「発売日」がない
なお、CDやゲームソフトのように、書籍には明確な「発売日」というものがありません。
これは都心部から順次発売されるということもありますが、あくまで出版社が責任を負えるのが「書店に納品する取次に委託するところまで」だからです。
当然書店チェーンや小さい個人経営の書店はそれぞれが独立した小売店ですから、何を仕入れるか決めるのは本質的には自由ですよね。
新刊を最速で(発売可能日に)仕入れるかどうかは書店側が決めるので、発売日というものを出版社側がはっきりアナウンスすることができないということです。
たとえば東京の大型書店とネット書店のアマゾンでは最速で手に入る日時が違っていたりもしますが、これは書店ごとにスピードが違うのが理由ですね。